小学生の頃の友人の言葉が、妙に強く印象に残っている。
「傘って周りの空気を切り取って包み込んでくれる感じがするから好き」
一字一句正確に覚えているわけではないのだが、概ねこのようなことを言っていた。
その感性がうらやましいと思った。
雨の日は嫌いじゃなかったと思う。雨が降った後は空気が洗われてリセットされたような香りがするから。
湿った土の匂いを感じられたり、台風の後のカラッと晴れた空がよく見えたりする場所に住んでいて、自然を感じながら生きることが嫌いではなかった。
でも私がそうやって培ってきたものは五感を使った感性で、外からの刺激をそのまま受け取るもの。
内面的な、感情と世界との結びつきに気づけた友人がうらやましかった。
思えばこの時、私は自分が小説家のような物書きにはあまり向かないのではないかということに気づいたのかもしれない。
口では字書きになりたいと言っていながら結局仕事にしなかったのは、恐らく幼い日のこの体験があったからだ。
だが大人になるにつれ、私は感情的なことを書くのはあまり得意ではないけれど、事実や体験談を書くことはたぶん下手ではないということにも気づけた。
あの日確かに小さな失望を味わったけれど。
今につながる希望を見つけた日でもあった。
傘を差すたびに思い出す、少し苦くて甘い思い出の話。
今週のお題「レイングッズ」